冬の空は一面が黒に染まる。
雲に覆われた月と星が姿を消すことで時間の流れを空から実感する事ができず、このまま二度と夜が明けることは無いのではないかとさえ錯覚させられる。
夜が一生続くのならば、夜にしか生きられない私は姿を変える事無くいられるのだろうか―――そんな疑問が頭を過ぎる。
「・・・」
自国であるノスタルジアへと帰国した私は、すれ違う人さえ見当たらない深夜二時を回った街を、今日も無事に生きて帰れたことにただ安堵しながら歩く。
広場の中心に建てられた噴水の側を通り過ぎ、今の時間は大差なく感じる路地裏の閑散とした風景を見ながら目的地へと歩く。
「・・・おかえり、フェイトちゃん」
路地裏の奥の行き止まりに、彼女はいた。
月明かりに照らされた白い肌に特徴的な髪飾りのはやての声と笑顔を見た瞬間、私は心に張った緊張の糸を緩々と解く。
「ただいま、はやて」
疲れから完璧とまではいえない笑顔を彼女に向ける。
それを見た彼女は一度頷き、背にしていたレンガの壁を左拳で軽く二回叩く。
すると平らな壁の一部から取っ手が浮き出てきて、はやてはそれを掴んで手前に引く。
「ありがとう」
扉の入口は縦一メートル程しかない為頭を下げてくぐり、そのまま下へと続く医師の階段を踏み外さないように気を付けて歩く。
人がギリギリすれ違える位の幅しかない通路に灯りを置くスペースは無く、後を付いて来るはやてが扉を閉じると辺りは全く光の無い暗闇になる。
少しだけその場に留まり、闇に目が慣れた頃に再び歩き出し、らせん状に続く階段を二周ほど回ったところで、漸く目的地に着いた。
「はぁ・・・」
私の部屋―――灯りの点いたそこには生活に必要なものだけが置かれていて、見慣れた景色に心が安らぐ。
「お疲れ様、フェイトちゃん」
はやては必ず部屋に着いてから、私に労いの言葉を掛けてくれる。
任務からの帰還で会った時に最初に言う言葉はおかえりで、部屋に着いた時はお疲れ様だと、彼女の中で決めているらしい。
「ありがとう、はやて・・・そして、ごめん」
私を待っていてくれていた友人に感謝を伝え、その次に今日目覚めた際に言った言葉をもう一度繰り返す。
「もうええよ、済んだ事やし」
「・・・うん」
これ以上謝罪の言葉を繰り返したところで、私が行った事実は覆らないし、消えもしない―――苦笑いを浮かべたはやての優しさに甘えて、私は頷いた。
「それより・・・はい」
「え?」
はやては上着のポケットから取り出した便箋を私に差し出す。
真っ白な便箋の表には何の装飾も無く、手首を返して裏を見ると、右下に大きく乱れた黒い文字が書いてあった。
「フェ・・・イ・・・ト」
文字というより絵を見る感覚でそれを口にする。
語尾につけた疑問符が問い掛けであると察してくれたはやてが回答を口にする。
「正解や。なのはちゃんはまだ文字の読み書きが出来へんから、私の文字を見様見真似で頑張って書いたんやで・・・あ、なのはちゃん気にしてるみたいやから、このことは知らない振りしてな」
「え、それって・・・」
なのは―――その言葉に大きく反応してしまう。
「あっあと、ちょっと事情があって牢の中に閉じ込められてるんやけれど、それも知らん振りして尚且つ詮索もしないで、これから手紙書いてな」
「!?」
もしかして―――希望が叶った事に喜びと驚きの眼差しではやてを見つめる。
「なのはちゃんも同じような顔してたわ・・・そんな嬉しそうな顔されたら、無下に断れへんやろ。もう勝手なことをしないって条件付きで、なのはちゃんとの文通を許したる」
「ありがとう!! はやて」
「わっ、私もお互いの手紙を確認するからな」
「問題ないよ。ありがとう!!」


          ×          ×          ×


フェイトさんへ

こんばんは、でいいのでしょうか?
私の名前はなのはと言います。
お返事、ありがとうございます。
少し恥ずかしかったですけれど、そういう風に感じてもらえて嬉しかったです。
質問ですが、フェイトさんにとってはやてちゃんはどんな人ですが?
昔からの友達だと聞いているので、色々教えて欲しいです。

はやてちゃんから仲良くなる為にはお互いのことを知る事が大切だと教えてもらったので、私の事を書きます。
私の年齢は十四歳です。
私の性別は女性で、髪の色は亜麻色です。
私の印象はとても可愛い、とはやてちゃんが言っているのですが、はやてちゃんの方が小さくて可愛いので、そんな感じとしか言えません。
私の好きな食べ物は、はやてちゃんの作ってくれるシチューです。
はやてちゃんはとても忙しいのですが、偶に作ってくれます。
食べた後に温かさが体中に広がって、幸せな気持ちになれるところが一番好きです。
私の好きなものは、空です。
特に晴れた日の空が大好きで、綺麗な蒼色の空が視界一杯に広がっていると、自然の笑顔になります。
もしよかったら、フェイトさんのことも教えてください。

なのはより





なのはさんへ

こんにちは、フェイトです。
お返事ありがとうございます。
質問に対しての回答ですが、親しい人間が少ない私にとって、はやては掛け替えのない大切な友人であり、家族といっても過言ではないと思っています。
はやてが私の事を良く思っているかは分からないですけど・・・←同じように思ってるに決まっとるやろ!! byはやて
わたしが物心ついた頃から側にいて、楽しい事も、辛い事も一緒に経験してきました。
彼女は少しお節介な所があって、そこが良くもあり悪くもありだと感じています。
なのはさんも思うところがあると思います。
はやては言葉では乱暴な事を言う時もありますが、根はとても優しい人です。
その点に関してはなのはさんが触れていた事も、私が貴女の手紙に引かれた理由の一つです。
あぁ・・・仲間がいるんだな・・・って、思えました。

なのはさんの事、色々教えてくださりありがとうございます。
私からも自己紹介をさせてもらいます。
私の名前はフェイトと言います。
私の年齢はなのはさんと同じ十四歳です。
私の性別は女性で髪の色は金色です。
私の印象ははやて曰く美人らしいのですが、あまりそうは思いません。
は少し大げさにいう所があるので・・・←はやてさんによる修正 byはやて
私の好きな食べ物は、はやての作ってくれる食べ物全てです。
ちょっとずるい回答ですが、どれも甲乙つけ難いので、許してください。
私の好きなものは、はやてと過ごす時間です。
何だか、この前のなのはさんの繰り返しのようになってしまいましたね。

私からの質問、というよりもお願いに近いですが、もしよろしければ、空のどんなところが好きかもっと詳しく教えてもらえませんか?
それでは、お返事お待ちしています。

フェイトより










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